「きみたち若者諸君が投票しないから高齢者向けの政策になる」
こういう意見をよく目にする。
確かに政治家にとって、票を集めるための政策をするのが主な仕事なのだったら、票数の多い高齢者向けの政策を行うのは理にかなっているだろう。
また、
「若年層が1%投票棄権することにより13万5千円損している」
このニュースも最近よく見る。
そして、
「若者が投票にいかないせいで4000万円も損している」
という本もある。(過去に読んで読書会で議論した)
この手の話は
「きみたち若者諸君が投票しないから損している!」
といった、要は”損しているから投票にいけ”ということを言いたいのだ。
こういうアプローチで若者の投票率をあげようという魂胆は、なんだかいやらしいし、損しているからといって若者が投票にいくようになるなんていうのは、若者をバカにした浅はかな考えであると思う。
たぶんこういうことを平気で言えるのは、若者が投票しない理由がひどく単純で馬鹿げたことだと思っているからだろう。
でも政治をしているのはこういう大人たちなので、百歩譲って、この手の人たちの言う通り
「若者の投票者数が少ない事が問題であるのなら、もし若者が投票にいくようになれば若者向けの政策が行われるようになるのか?」
ということについて考えていきたい。
まず、前回の衆議院選挙の数字を見てみよう。
平成24年12月16日のデータを参照する。
投票率だけではわからないので、各年代別の投票率と当時の人口から実際の投票者数を割り出してみた。
年代別投票率の推移
明るい選挙推進委員会
下記の人口は総務省統計局から抜粋した。
(以下人口単位は千)
20代 人口 12887人 投票者数 4882人 投票率 37.89%
30代 人口 16824人 投票者数 8428人 投票率 50.1%
40代 人口 17468人 投票者数 10372人 投票率 59.38%
50代 人口 15430人 投票者数 10495人 投票率 68.02%
60代 人口 18337人 投票者数 13739人 投票率 74.93%
70代以上 人口 22596人 投票者数 14303人 投票率 63.3%
数字がたくさんあってわかりにくいので、若者を20代・30代 中年40代・50代 高齢者60代・70代にまとめてみる。
若者 人口 29711人 投票者数 13311人 投票率 約44%
中年 人口 32898人 投票者数 20867人 投票率 約63%
高齢者 人口 40933人 投票者数 28043人 投票率 約68%
まず極端な話からつぶしていこう。
”高齢者の投票人口の方が多いから高齢者向けの政策重視になる”のであれば、
原理的に若者は投票者数で高齢者に勝たなければ、若者重視の政策にならないということになるはずだ。
若者が高齢者に投票者数で勝つためには、高齢者の投票者数28043人を上回らなければならない。
若者の総人口が29711人なので、高齢者に勝つために必要な若者の投票率は約95%。
よって単純に投票者数が少ないことが原因なのであれば、若者の95%が投票しないと若者重視の政策にはならないということになる。
もちろん、投票者数で若者が勝たなければならないとは誰も言っていない。
しかし、高齢者の数字にある程度近づかなければ若者向けの政策は行えないということを大人達は言いたいのだろう。
だがそれも難しい話だ。
試しに若者の投票率と投票人口を見比べてみよう。
80%(23768人)
70%(20797人)
60%(17826人)
50%(14855人)
高齢者の投票率と同じ約68%でも20203人だ。
高齢者は68%で28043人なのだから、差は800万人である。
以上により、投票人口だけが政策を左右しているのだったら、若者の投票率があがったところで結局、高齢者向けの政策を行う方が当選はしやすいことは明白である。
「選挙に通るためには高齢者向けの政策になるのは仕方が無い」のだったら、若者の投票率がどれだけあがろうが関係ない。
単純な票数だけで考えるのなら人口が少ない若者は何をやっても高齢者には勝てないのである。
しかしここで言いたいのは、こんな結論ではない。
もう少し掘り下げてみよう。
僕は「若者の投票数が少ないから高齢者向けの政策になっている」と言っている大人たちの欺瞞を明らかにしたいのだ。
こういうことを言う大人の本音は「きみたち若者が投票しないから目先のことしか考えない政策になってしまうんだよ。だから未来のことを考えた政策が出来ないのは君たち若者の責任だ」と責任を若者に転嫁しようとしているのだ。
だからたとえ今後日本が借金まみれになったとしても、年金が破綻したとしても、原発が爆発したとしても「全ては若者諸君が投票しないせいで目先の金ばかりを重視する政策になってしまっているからだ」という言い訳で片付けられてしまいかねない。
そしてこのままいくと未来に起こりうるかもしれない各種破綻の責任は「その際に困ることになるあなた達若者世代にあるのだから、この問題の責任はきみたちにある」と、若者に転嫁するための布石になっているように思う。
多分、もし未来の日本で何か問題が起きたとしたら、「あの頃の若者が投票しなかったせいだ」と言われるのだろう。
「だからきみたち若者でなんとかしてね☆ミ」と言われて終わりだ。
だからこのままいくとその時の被害者は、この論を受け入れてあらゆる莫大な負債を返済することを強いられてしまうだろう。
じゃあこうならないために、今の若者はどうすれば良いのか?
単純に投票率をあげれば良いのか?
確かに若者の投票率が現在の1.5倍の66%にでもなれば流れは変わってくるだろう。
しかし現状右肩下がりの投票率推移にあっては、戦争にでもならない限り66%もの投票率は不可能だと思う。
僕が思うに、こうなったら若者は逆に投票しないという選択肢もあり得ると思う。
投票しないことによって現在の選挙制度や政治へのすごく遠回しな批判をするのだ。
投票率がどんどん下がる事によって、大人世代にある種の危機感を抱かせる方が、インパクトは強い。
もちろんこれは、全くもって建設的な方法でもないし、極論すると暴力団や右翼と似たような主張の仕方でもある。
しかしそれでも僕は、このまま投票率がたらたら低いラインを推移していくぐらいならば、思い切って投票しないことによって今の政治の仕組みや選挙を丸ごと否定する態度を選択し、大人たちの危機感を煽ることにより改革を促していくのも良いかもしれないと思う。
だからあえて投票しないという選択肢を選ぶことも間違いではないと僕は思う。
もう参議院選挙は終わってしまったから選挙は結構先になるとは思うけど、次回の選挙の際にも、このまま若者に責任を転嫁するだけの言い訳が述べられ続けるのであれば、積極的に投票しないということを選択肢の一つとして考えてもらってもいいとはおもう。
おわり